オレンジのピース

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へっぽこさらりんのへっぽこ日常

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「おくりびと」 個人的覚書

普段は、パンフレットを購入してたらあんまり覚書書いておこうと思わないんだけど
今回は売り切れてたので、個人的覚書を。


でもって、もちろん単純に書いて残しておきたかったってのもあるけど。









【あらすじ】
楽団の解散でチェロ奏者として生きることを諦めた大悟は、妻の美香と共に田舎に戻り母親が残してくれた一軒家で暮らすことにした。
次の仕事を探す大悟に求人のチラシが目に留まる。仕事の内容もわからないまま面接に行き、即採用が決まったそこは「納棺屋」戸惑うも美香には業種を誤魔化し、仕事に励む大悟。

しかし子供の頃通っていた銭湯の家の友人と再会もし喜びあったのだが、その後街でばったり会った時に大悟の仕事を知ったその友人から「仕事選べよ」と言われ避けられてしまう。
また業種を知らず喜んでいた美香も、ある日仕事の内容を知って驚き「辞めてほしい」と強く望むが大悟は躊躇う。そんな彼に「一生の仕事に出来るの?中途半端なことしないで」と言う美香に「続ける」と言い、業種を毛嫌い受け入れられない妻は実家に帰ってしまった。

それでも、辞めることなく黙々と「納棺師」という仕事をこなしていく大悟。

やがて季節が変わり、美香が帰ってきた「妊娠した、だから子供の為にも転職してほしい」と言われる。言葉に詰まる大悟。そこへ銭湯のおばちゃんが亡くなったと連絡がある。美香を連れて銭湯に行き、友人、美香の前で黙々と仕事をする。それを見て美香と友人の心の中にあった気持ちが緩み、美香はその業種を受け入れていく。

それから数ヵ月後、小さい頃に女と駆け落ちした大悟の父親が亡くなったと連絡が来た。顔も覚えてない父親の遺体を引き取りに美香と共に漁港へ。身よりもない父親との対面。漁港地元の葬儀屋が遺体を棺に入れようとして「自分にやらせて下さい」と言う。訝しがる葬儀屋に美香が「夫は納棺師なんです」ときっぱり言った。
遺体を清めている時に手に握り締めた石ころが零れ落ちる。
小さい頃に交わした「石文」を思い出し、夫は涙がこぼれた。


監督:滝田洋二郎
脚本:小山薫堂
音楽:久石譲
出演:本木雅弘 広末涼子 山崎努 余貴美子 杉本哲太 峰岸徹 山田辰夫 橘ユキコ 吉行和子 笹野高史


【感想】
全体としては淡々とした物語というイメージ。

セリフで気持ちを語るよりも映像で伝えるため、俳優の表情や仕草、動きがとても大切でそれがいい。表情を見ててぐっと引き込まれ静かに感じる。うまい。背景も穏やかで違和感も感じることなく、とても似合っている。

妻の葛藤を前面に押し出すシーンも表情とわずかな言葉だけでくどさはなく、どことなく控え目で夫に従う「出来た妻」のように見えるが、WEB制作の仕事をしている妻なので、きっと夫の知らないネットの世界のどこかでガス抜きしつつ生きてるんだろうなぁと想像できる。だから田舎に一緒に帰ることもすんなり出来たのだろうと。
ある種現代夫婦の「理想の形」にも見えた。

妻が夫の仕事を初めて目の前で見た時、気嫌っていた仕事を徐々に受け入れていく所も言葉はなかったが「ああ、今、彼の仕事(彼のこれからの人生?)を理解し受け入れたな」と感じた。

妻の仕事ぶりを見せるシーンも触れる程度だったし、その他の登場人物の心情にも深く突っ込んだシーンがなかったから夫以外の誰かの気持ちを見せることにこだわったり引っぱったりすることもあまりなく、観る方は淡々と「納棺師」としての夫の感情に寄り添えて感じることが出来たのだと思う。

この話は「生と死」だけでなく「親子の絆や夫婦愛」も練りこまれている気がする。父親個人がどんな風だったかという過去の回想シーンはなく、あっても捨てて出ていった時のこととかには一切ふれていない。だから、ひどい父親だったという印象は薄い。客観的に考えれば「家族を捨て女と出ていった」ということから父親だけが悪者になってもおかしくないのにそう感じない。実際の所は、父親と母親の「過去の感情」には一切ふれていない。事実だけをこちらに情報として教えてくれる。

それゆえに、妻が「お母さんはお父さんのことずっと愛してたのよ。そうでなきゃお父さんが置いていったレコードをこんなに綺麗に置いてない。とっくに捨ててしまってる」と夫婦愛を口にした時、心の中で肯いてしまった。愛している人の大切にしていた物を捨てるのは私も余程でなければ出来ない。物には「自分の想い」がこもるから。

それでも、父親との思い出を覚えてないことによって多少都合のいいように過去の現実は夫婦の会話で再構築されてるところもあると思う。
でも、それが彼ら夫婦のこれからの思い出になるのだから素敵なことだ。
夫婦にしか出来ない「思い出」だ。
薄く甘い感情が幾層にも沸き起こりミルフィーユのように重ねられ、せつなくなった。

父親と小さい頃交わしていた「石文」このアイテムが親子、夫婦愛を表すのにいい小道具になっていた。ただの「手紙」にすると文章を読むという作業で「想い」が受取る側の状況で理解する視点や解釈がまったく違うものになってしまうこともあるが「文」と付くにもかかわらず、そこに言葉や文章という「中継ぎ」では一切こちらに届かない。
だから、その出来事は一見すると相手の「想い」のように思うが裏を返せばそれは受取った人の相手を想う感情でもあると思う。
それゆえそこに人の本来持つ素直な感情のみが沸き起こるのかもと思った。

特殊な仕事を背景にしているからこそ出来た作品だと思うが、それでも深みのある感慨深い趣きを感じる。人をきちんと描いて見せているから(そこは俳優の素晴らしさが大きいと思う)流れるようないいものになったんだと思う。

一本筋がビシッと通った感じの映画で2時間10分位の上映時間があっという間で、とても短く感じた。
穏やかでいい映画だと思う。

夫役の本木も妻役の広末の演技もよかった。何より表情と間で語る気持ちの流れを感じられる。俳優のうまさの重要性を感じ、誰かがとても悪目立ちするでもなく、染み入る感じで優しい気持ちになれた。

気持ちのいい涙を流せた。見に行ってよかった。
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by sararin220 | 2008-12-18 23:00 | 戯曲・シナリオ・映画関係